大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和35年(ラ)1号 決定 1960年3月17日

抗告人 高野ヨシ

訴訟代理人 村部芳太郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件記録によれば、阿部寅治が執行吏釣部義雄に委任し抗告人所有の原決定第一目録記載の物件(第一物件)を昭和三十四年七月十四日差し押えたこと、株式会社北海道相互銀行が執行吏森隆三に委任して同年十一月二十六日第一物件について照査手続をなし、まだ差し押えられていなかつた原決定第二目録記載の物件(第二物件)を差し押え、その差押調書を釣部執行吏に交付してすべての差押物を競売すべきことを求めたこと、釣部執行吏が第一、第二物件の競売期日を同年十二月二十六日午前八時と定めたこと、抗告人が前記銀行と示談し同銀行が競売期日を一箇月延期する旨の承諾を与えて釣部執行吏にその旨申し出でたこと、阿部寅治が競売期日の延期に同意していないこと、釣部執行吏が第二物件について右期日に競売を行う予定であつたことが認められる。

抗告人は、「第二物件は右銀行を差し押えたものであつて、阿部寅治はこれについて差押も照査もしておらず、同人の差押の効力は同物件に及んでいないから、釣部執行吏は阿部寅治のため右期日に第二物件の競売を行うことはできない。」と主張する。

しかし、動産に対する強制執行において、債権者の委任により執行吏がある物を差し押え、後で他の債権者が他の執行吏に委任して右差押物の照査をなし、まだ差押をしていない他の物を差し押え、前の執行吏にその差押調書を交付してすべての物の競売を求めたときは、爾後、前の執行吏は前と後の両債権者のために総ての差押物につき競売手続を進めることとなり、前の債権者も後の差押物について競売手続の進行を求めることができると解されるから、後の差押物について執行の猶予を受けるには、後の債権者のみならず前の債権者の承諾をも必要とするのである。

そうだとすれば、本件第二物件の競売の延期について、前記銀行の承諾の外に阿部寅治の承諾をも必要とするのであるが、同人の承諾は与えられていないのであるから、釣部執行吏が同物件の競売期日を延期せずに実施することは相当の措置であつて、なんら違法と見ることはできない。

従つて、本件抗告は理由がないので、民事訴訟法第四百十四条第三百八十四条第九十五条第八十九条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石谷三郎 裁判官 渡辺一雄 裁判官 岡成人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例